藤岡惇
以下の論稿は、研究大会での私の報告要旨を素材に、その後の事態の変化をふまえて、書き直したものです。
1.はじめに
平岡 敬さんと日米学生の協同の学び
97歳になられた平岡さんの「人生総決算のスピーチ」は、迫力に富むものでした。広島への原爆投下への謝罪を拒否しつつ、新たな核軍拡に向かう米国バイデン政権の動きに警鐘を鳴らされた。と同時に、ウクライナ戦争の本質を、プーチンによる侵略戦争だと単純化して捉える日本の通説にも疑問を呈されました。
平岡さんと最初にお会いしたのは30年前の1995年8月。きっかけを作ってくれたのは、アメリカン大学(AU)を卒業したばかりの直野章子さん(現在は京都大学人文科学研究所教授)でした。彼女は被爆2世。被爆50周年の1995年の夏に、「核の歴史――広島・長崎を越えて」という夏季研修科目の設置を求める運動をAUの夏季研修局に行っておられた。米国史を担当するピータ・カズニックさんが指導教員を引き受け、直野さんの願いは実現。広島への旅のエスコート役を、立命の平和学受講生有志とともに私が担うこととなりました。
スミソニアン協会の航空宇宙博物館企画の「原爆展」が、「原爆投下の正当性を疑っている」という嫌疑をかけられ、議会で猛烈な批判を浴び、開催中止に追い込まれた時期でした。広島市提供の被爆遺品が使って、AUを会場にして「もう一つの原爆展」が開かれ、平岡市長は「希望のヒロシマ」という感動的な講演をされたわけです。1) おかげで、私たち、日米学生の旅行団は、広島の地で大歓迎を受けました。
AUと立命共同開講の「原爆学習の旅」は、その後も、ピータ・カズニックと私がコンビを組んで、23年間続き、900名ほどの日米学生が参加しました。協力していただいた平岡さんは大恩人なのです。2)
石川康宏さんのこと
本日、お招きした石川康宏さんは1957年生まれですので、私より10歳若い。立命館の産業社会学部に入学し、自治会運動に全力投球するも、仕送りの途絶で赤貧生活に陥り、体を壊して中退されたそうです。生協食堂でのアルバイトなどで食いつなぎ、30歳前後で、立命館大学の2部経済学部への再入学を果たし、私のゼミに入られた。テーマを自分で設定し、自らの力で探究していく力をもった得難い人でした。私にできたのは、冗談を言って、彼を笑わせたことくらいか。
神戸女学院大学では学生とともに歩む教育実践を積み上げられ、今では、日本最大の平和運動団体の「日本平和委員会」の代表理事として、理論問題にも取り組まれている。たくましく成長された石川さんの胸を借りて、平和問題に関わる、私の年来の疑問を解くチャンスにできればと願っています。
もう一人の報告者の福岡奈織さんにも注目しています。福岡さんは、広島のイニアビ農園で、「自然(順応型)栽培」を実践中。上からの暴力的な改造=「生産」ではなく、生物の「発達保障」・ケア型の「栽培」をめざされている。地球上の生命体はすべて、物質代謝(イノチの移し替え)を行っている。そのうえ「精神代謝」(二宮厚美)を行い、エンパシー(慈しみ)の心の移し替えを試みている生物も少なくないと思います。
このような質の平和を築くために何をなすべきか。答えを求めて、「私の人生を見て下さい、それこそが私のメッセージ」という生き方をされており、感心しました。
2.核軍拡の原動力とは何であったのか
日本平和委員会の『平和運動』などの雑誌を読んで、残念に思うことがあります。
ソ連解体後、事実上、核戦争の危機が消えた時代が30年近く続いた。その結果、それ以前の40年間の「冷戦期」の理論的蓄積が十分には継承されていないのではないかと感じることがあります。
例えば「核抑止」をめぐって、以下の3つの陣営が並び立ってきましたが、その違いが十分には理解されていない。
① 勝利追求型核抑止派(核のタカ派)
核を「万能の必勝兵器」(Winning Weapon)と見なす、1945年以来の軍部主流派のグループです。1960年代ー70年代には核戦争は共滅をもたらすというMAD派が台頭したため、一時的に弱まりますが、80年代に入ると、核弾頭の命中精度の向上に伴い、先制攻撃戦略をとり、宇宙利用を行えば、カウンターフォース(敵の核戦力と司令中枢の総つぶし)に成功できる展望、核戦争に勝利できる展望が出てきたという論調が強まり、「核のタカ派」は再び勢いを取り戻しました。
彼らは言います。先制第一撃を辞さず、標的を敵の核戦力と司令中枢に限定し、敵の核武装を解除する。そうすればMADを恐れなくてすむし、大都市部の住民・財産を総破壊するぞ(カウンターバリューCounter Value)と脅せば、この強大な核抑止力に屈して、敵は降伏するだろうと。
②共滅覚悟型核抑止派(核のハト派、MAD派)
起源は60年代のケネディ・マクナマラ。今日の代表は、クリントン政権時の国防長官のウイリアム・ペリーです。核戦争勝利という目的は達成不可能なため、放棄することを明確にします。敵の核戦力や司令中枢は、核攻撃の標的ではなくなりますし、先制攻撃も放棄します。敵が核攻撃を仕掛けてきたら、その後に報復として、深海に潜む潜水艦から、発射国の大都市部を向けて、核ミサイルを発射し、大都市部全域を壊滅させることのみを使命とします。こうすれば、相互の疑心暗鬼はなくなり、核軍事費用は、従来の1割の水準にまで下げられると説くのです。192発の核弾頭搭載の潜水艦10隻――合計1920発の核弾頭レベルに縮減し、逃げ隠れできない大都市住民を標的とすれば、従来の1割程度の費用でMAD状態を維持できるとペリーは説きます。それに加えて、「核開戦をめぐる大統領専権の制限」、「核の先制不使用」、「核ミサイル防衛の中止」も実行すべしと説いています。3)
③核の廃絶派とMAD派とは共闘できる
第3のグループとして、「核の廃絶派」がいます。
「核戦争には勝者はいない。したがって核戦争を戦ってはならない」という点では「廃絶派」とMAD派とは一致しています。何が違うのか。核を全廃した後の世界に、①もし「核を秘密に開発した独裁者」が現れ「核恐喝」を始めた時の「保険」として一定数の核を残しておいたほうが、安心できると考えるのか、②原発の廃絶にまで踏み込むのかどうか。
さらに言えば、核抑止論の克服のカギとして「核戦争の人的犠牲の苛烈さを打ち出す「人道的アプローチ」の必要が強調されますが、この「人道的アプローチ」と「核戦争には勝者がいない」という「共滅アプローチ」とを結びつけることが、冷戦期、特に1980年代の反核平和運動の高揚の秘訣でした。当時の「生存のための動員」といった運動体に、興奮したものです。この点にも光を当てる必要があると思います。
3. 宇宙を舞台に、敵の核戦力と司令中枢を総つぶしせよ
――勝利型核抑止を目指した2度の試み
2度の試みを整理すると、次のようになります。
「宇宙核戦争1.0」 (1958-1963年)
米ロでほぼ同時に水爆が開発され、その後、宇宙を飛ぶミサイルや宇宙衛星をソ連の側が先に開発するという事態が、1957年に発生します。いわゆる「スプートニク・ショック」です。宇宙衛星から水爆級の核ミサイルを撃ち込まれたら、応戦しても共倒れ、あるいはソ連側が一方勝ちするかもしれない。こうして勝利型核抑止への米国の自信が揺らぎ、幾多の試行錯誤が始まります。
宇宙空間で核爆発を起こせば、大量の荷電粒子が発生し、地磁気の作用を受けて、「強烈な放射線帯」が形成され、ソ連の核ミサイルは機能停止に陥るのではないかという主張が現れた。この点を確かめるため、1958年8-9月に、米海軍が南アフリカ沖の宇宙空間で3度の核実験を行いました(Operation Argus)。その結果、放射線帯は形成されるが、核ミサイルの撃墜には力不足であることが判明します。他方、米陸軍は、ハワイ島から1400キロ離れた米陸軍のジョンストン島を舞台に1962年6月から11月まで14回の宇宙での核爆発によって、敵の核ミサイルを撃破する実験が行われました。HEMP(宇宙での電磁パルス)=「核の闇」という深刻な事態をうみだすことが判明しただけでした。
MAD派の出現
この事態とキューバの核危機を受けて、ハト派=MAD派が支配するケネディ・マクナマラ時代が現れた。敵の核戦力の総つぶしは放棄し、核の先制不使用で核軍縮をはかろうとするハト派の時代が10年間続きます。1972年のABM条約がその指標です。核―軍産複合体には冬の時代となります。
「宇宙核戦争2.0」 (1982年―88年)
通常戦争として行われたベトナム戦争に米国は敗北、サイゴン陥落に至ります。余勢を駆ってソ連は、1979年12月、通常兵力をもちいてアフガン侵攻を開始しました。
1982年に大統領となったレーガンは、83年3月に「戦略防衛構想」(SDI)を発表。宇宙核戦争に勝利する態勢を築き、ソ連の攻勢を阻止するという決断を行います。多数の宇宙衛星に天空を巡回させ、衛星搭載のレーザー砲を敵の核ミサイルに向けて発射すれば、敵の核ミサイルを全て撃墜でき、核戦争に勝利できるというアイデアを科学者から売り込まれたレーガンの決断の所産でした。こうして「勝利型核抑止」に向けた挑戦が再開されたわけです。
しかしレーザー砲電源用原子炉の衛星搭載の困難、反核運動の高揚に加えて、核軍拡競争から撤退するという決断をソ連指導部が下したことが転機となり、1985年11月21日のジュネーブでの米ソ首脳会談において、「核戦争に勝者はなく、核戦争は戦ってはならない」という「MAD派型の合意」に米ソ首脳は達しました。これは、冷戦に決着をつけ、ソ連型社会主義(実態は国家産業主義)を葬り去るためのリップサービスにすぎず、ソ連を崩壊させるという目標が達成された後は、論争は眠り込んでしまいました。4)
論争凍結の26年間――反テロ地球戦争で経済疲弊を招いた時代(1991-2017年)
1990年代-2000年代に入ると、米国の核戦力の大半を通常戦争仕様に転換し、イラク・アフガンなど非核国の反米勢力の討伐に転用。軍民分離の壁が下がり、両用技術の余地が広がりました。後半の2001年以降は、中東・中央アジアのペトロ(石油・天然ガス)資源制覇のため、米国は戦争をしかけた。しかし20年間に7兆ドルの巨費を投じたにもかかわらず、中東からの総撤退に追い込まれるに至ります。この間に中国は躍進し、ロシア・北朝鮮・イランも復調してきました。
4.3度目の挑戦
――宇宙核戦争3.0の開始(2017年―)
非米勢力の前進に対抗して「核・安全保障国家」米国の逆襲が始まります。2017年12月、第1期トランプ政権の安全保障政策「国家安全保障戦略(NSS)が公表されました。これはネオコン勢力に入れ知恵されたものでした。
これまでは、イラン・北朝鮮の「ならず者国家」と国際テロ組織が主敵でしたが、今後は中国・ロシア・イランが主敵となりました。とくに中国については、米国中心の国際秩序に対する「唯一最大の挑戦者」として位置付け、宇宙核戦争を辞さぬ覚悟で封じ込め、衰弱させる戦略が示されたのです。
勝利型核抑止派が再び主導権を握った
証拠① 核兵器部門の数万人の米軍人が学ぶガイドブック教本『大国間競争の時代の核抑止』5)
証拠② 米国議会の超党派委員会の最終報告書 “America‘s Strategic Posture” Oct.2023
2027年―2035年の間に構築すべき米国の戦力目標を策定したもの。 中国・ロシア・北朝鮮の3国の連携した核攻撃に対抗し、核開戦をしたばあいは、勝利する態勢づくりを急ぎ、勝利型核抑止にむけて国論を統一せよと説かれている。この立場を具体化するため、中ロ北の地下サイロ内の核ミサイルを標的とする米海軍トライデント潜水艦搭載の核弾頭=再突入体(100ktW-76)の先端部に装着する命中精度を高める装置(Super-Fuse,MC4700 )を改善し、破壊力を2-3倍に高める措置が実行されています。6)
5.ウクライナ戦争とネオコン
――「米国の戦略戦争」か、「ロシアの侵略戦争」か
安斎育郎さんの説
立命館大学国際平和ミュージアム名誉館長の安斎育郎さんは、こう書いています。「2009年のオバマ政権以来、ジョー・バイデン副大統領とヴィクトリア・ヌーランド国務次官補を中心にウクライナにNATO加盟をけしかけ、2014年に50億ドルの巨費を投じてユーロ・マイダン・クーデターを起こしてウクライナに親米傀儡政権をつくった。この親米傀儡政権がアゾフ大隊などのネオナチ集団を国軍に編入してウクライナの東部ドンバス地方のロシア語話者に対する民族浄化まがいの軍事弾圧を加えたこと」に主因があると。
「武器供与を通じて米国の軍需産業を肥え太らせ、ロシアを疲弊させる。NATOとその周辺諸国を対ロ経済制裁に巻き込んで、ロシアのエネルギー資源に依存しているヨーロッパ諸国に困難をもたらし、米国系エネルギーを買わせ、米国の一人勝ち状態にするーーこれが米国の戦略だ」と。ウクライナにおける軍事衝突が、この地の資源と権益を獲得することをめざす米国(米英、NATO)とロシアとの代理戦争であるが、主たる責任は米国側にあるというのが安斎説のコアだ。
3人のうち「最悪はネオコン=バイデン」
第1期の政権掌握のなかで、諜報部の機密情報に通暁しているトランプも、2025年4月14日に、ウクライナで数百万人が殺された責任を負うのは、プーチン、ネオコンと連携したバイデン、ゼレンスキーの3人に責任がある。「3人ともその気になれば、戦争の勃発をとめられたのだ」と述べた。7)
2日後にトランプは、さらに踏み込んでこう述べた。「ロシアとウクライナの戦争は、バイデンの戦争であり、私(トランプ)は、これと無縁だった。第1期のトランプ政権は、このような戦争を許さないという方針だったからだ」と。8)
ネオコンの責任を重視する「偉大国への復興ナショナリスト」
日本の「偉大国への復興ナショナリスト」の論客の大半は参政党のイデオローグであるが、彼らは、ネオコンに踊らされたバイデンの責任を重視する点で共通している。9)
トランプは、トップシークレットにアクセスする権限を再び持った。この戦争の悲劇をもたらす最大の責任者は誰なのか。情報の開示を要求しておきたい。
6. 世界を動かす3大勢力
――トランプ2.0が照らし出した世界――
3つの勢力への分岐
1)トップダウン型グローバリスト(軍事と経済)
NATO=核軍事同盟とドルの金融覇権のもとで、地球規模で経済・軍事力の統合を進める。
グローバリストのなかで、知性に富み、ユダヤ人左翼を共通の出自とし、現代世界を抜本的に改造しようとするのが、ネオコンだ。スターリン型「共産主義」に幻滅した東欧系トロツキストが第2次大戦後に「ネオコン」に「進化」。その特質は、冷戦リベラル型グローバリストを特質とする。トランプ陣営などグローバル覇権放棄派=偉大な国復興型ナショナリストは、「国家の奥の院」(ディープ・ステイト)の中枢だとして糾弾している。10)
2)「偉大国への復興」型ナショナリスト
トランプは、19世紀末の偉大な「米国の黄金時代」への復興を唱えて、米国大統領となった。ロシアのプーチン大統領のばあい、復興のモデルはピョートル大帝となる。イラン・サウジの支配者、ハンガリーのオルバン首相、プーチン、習近平、そしてトランプたちの共通項は「栄光の過去を取り戻そう。ただし白人男性優勢の時代」の19世紀から20世紀初頭の時期への復帰であり、国家・権力なき原始共産制への高次復帰という視野が欠けていることが共通点です。11)
3)民主的で水平的なインターナショナリスト
軍事同盟と冷戦に抗して、ニューディールの理想を守ろうとした「非覇権・非同盟」リベラル・・・「庶民の世紀」 ヘンリー・ウオーレス型のニューディール、グローバルサウス内の民主派:非同盟中立志向の中小国と市民社会派の連携体。排除せず、議論を尽くし、合意点で行動するアセアン10カ国がモデルとなります。
グローバルサウスとイーストの連携の動き――西洋の孤立と敗北
産油・資源国(イラン・サウジ・アラブ首長国、エジプト、メキシコ)、インドネシア・マレーシア・タイなどアセアン諸国多数も2023年秋にBRICSに加盟しました。グローバルノース連合(NATO G7)の資源・金、生産力保有シェアを上回る。NATO型核軍事同盟、ドル覇権への積年の「恨みと怒り」を背景に、インフレに耐える価値保存手段として、「金―資源本位制」への復帰の動きを主導している。ウクライナ戦争の3年間に、すでにドルにたいする金の価格は3倍近く値上がりしたのは、その証左。
7.米グローバリストは、日本を「中国退治の前線国」にできるのか
落日の帝国――宇宙覇権競争で劣勢に陥った米国
敵の核戦力の中枢は天空の「裸の王様」宇宙衛星編隊に移る
1)「核の槍」に生じた技術革命――「HSV」(極超音速巡航飛行体)、「HGV」(極超音速滑空飛行体)、衛星を兼ねた宇宙機(SV)では、中ロ側が先行する事態に。
2)ロシアも「核推進巡航ミサイルのプレヴェスニク」開発を公言(核推進のターボジェットで時速850-1300キロ、最低高度は25-100メートルで、数カ月間の連続飛行が可能、12)
3)現下の戦争インフラのアキレス腱は無防備な状態で宇宙を飛ぶ軍事衛星編隊。宇宙で簡単にマヒさせ、ドローン戦争もサイバー戦争もの活動は簡単にマヒしてしまう
4)誰も死なないし、地上の破壊もない「もっとも平和な戦争」ーー上空での核爆発による電磁パルス攻撃
5)核搭載の潜水艇を用いた「核爆発」による巨大津波で原発をマヒさせる
次なる核戦争は、「人は誰も傷つかない」敵の宇宙アセットの麻痺・破壊から始まる可能性が大。宇宙空間での核起動の光線兵器搭載の宇宙飛翔体の開発・配備ーーロシアで先行する
2024年4月の「宇宙への核兵器・装置の配備禁止」決議
2024年4月に米国と日本が国連安保理に提起し、ロシアがこれを葬った。
それはなぜか。宇宙で核爆発=電磁パルス攻撃により「裸の王様」=西側の宇宙インフラをマヒさせるロシア側の動きに対して、米国がいかに警戒しているかを示した。
その一例が、ウクライナ侵攻の直前の2022年2月5日にロシアが打ち上げたコスモス2553衛星だ。この衛星は、宇宙放射線が強く通信衛星や地球観測衛星が避け、高度約2000キロメートルの軌道を巡回し、不審な行動をしてきた。
イーロン・マスク氏の会社スペースXの「スターリンク」のような衛星ネットワーク全体を破壊できる核兵器の開発にロシアが何年も前から取り組んでおり、米政府当局者は同衛星が、ロシアの対衛星核兵器開発を支援するために打ち上げられたと疑ってきた。米政府は、24年春以来の、国連安保理事会での米日共同提案の背景をなす事実、また核エネルギーを電源とする光線兵器搭載の宇宙飛翔体のロシア・中国による先行開発についても米国は懸念している。
敵の核戦力つぶしの切り札は、40年前と同様に、半静止型宇宙飛翔体からの光線=レーザー砲攻撃となるでしょう。敵のミサイル基地は、深海の潜水艦に置き換われば、唯一の対抗策は、40年前の同様のアイデアへの回帰――核ミサイル発射基盤の上の宇宙低層の狭い空域を巡回できる宇宙飛翔体を多数配置、レーザー砲を搭載し、深海の潜水艦から発射される敵の核ミサイルを捕捉・撃破していくしかないでしょう。13)
「宇宙核戦争3.0」に勝利するためには何が必要か
1) 核の槍=「再突入体」自体の革命――極超音速自在飛翔体(HGV)から「衛星ミサイル」へ。さらには長期間、宇宙を悠遊する「宇宙飛翔体」(電源として小型の原子炉ないし原子電池搭載)の開発・配備に動いている。目的は、敵の核基地(核戦力)つぶしです。
中国は、なお「核の先制不使用」を約束しているが、ロシア・北は、核兵器を先制使用して米国と対抗するという、新しい核使用方針を明らかにした。しかも敵の核戦力の所在地は隠され、非核戦力と混りあって存在している。米宇宙軍の情報力をもってしても、敵の核基地と非核基地を区別し、非核ミサイル基地だけを選らんで、攻撃することは不可能です。
じっさい米国インド太平洋司令部「統合対空・ミサイル防衛」2028年の一環として、日本の自衛隊戦力は、敵(基)地内の「敵戦力X」を攻撃する任務を果たす任務に就くこととなる。日本に命ぜられるのは先制攻撃なのか、第2撃攻撃なのか。Xが非核戦力か、核戦力かを判定する能力も権限も自衛隊にはない。そのため、意図に反した「偶発的核戦争」の可能性が増すことが懸念されます。このような作戦に自衛隊が参画するならば、「宇宙核戦争3.0」)の引き金を日本が引かされる可能性が大きい。言い換えると「宇宙核戦争は勝利できるかどうか」を測定するための三度目の「人体実験場」に日本はなってしまう恐れがある。
日本海岸に林立する、あの無防備な日本の原発群、ロシアの核推進宇宙飛翔体・ブレヴェスニク(海燕)、マッハ10以上で飛ぶオレシニク核ミサイル、衛星軌道を自在に飛ぶ中国の核ミサイル。「槍」の開発は「盾」構築よりもはるかに安価で効果的だ。どれだけ巨額の費用を「宇宙の穴」に投じても、核戦争に勝利することは至難の技であり、「福祉・環境国家」の建設は無理となっていくだろう。
韓国では尹 錫悦大統領の弾劾・罷免が実現しました。非米、非同盟の東アジアの方向に韓国が動く公算が大きい。とくに「独立した指揮権」を要求する韓国左派と日本の政界との違いが明らかになっていくだろう。
8.平和を創っていくために何が必要か
いま私たちは「戦後のパックス・アメリカーナ(アメリカ中心の国際秩序)に最後の幕が下りるのを見ています。この局面を「宇宙核戦争3.0」の開戦、人類共滅という結果に終わらせぬために、何をなすべきか。最後にこの点を考えてみたい。
1)1950年ではなく1945年の進歩派リベラルの遺産を継ぐ
戦後の国連憲章・国際法の原点は1950年(冷戦リベラル制覇)ではなく、1945年の進
歩的リベラルにあることを肝に銘じる。1945年起点でニューディール派の進歩的リベラルが開始し、1950年の「冷戦リベラル反革命」によって、暴力的に中断させられた「戦後民主主義革命」の再開こそが決定的に重要ではないか。軍事同盟と核兵器の禁止、そして関税貿易戦争の抑制を掲げたニューディール・リベラル派の原点にこそ復帰し、核戦争なしに平和な社会に移っていく方策を探究しょう。
2)「核戦争には勝者なく、共滅する可能性が高い」という点につき、MAD派と核廃絶派とが共闘の軸となり、再度、合意する。
3)日本国憲法を堅持し、台湾有事に際して、日本は集団的自衛権を行使しないと宣言する。
4) 北朝鮮を敵視せず、包摂していく トランプ1.0時代の到達点(ハノイでの朝鮮戦争の終結合意)に戻る。
5) ベトナム戦争後のアセアンの「包摂的で水平型の安全保障」のしくみの発展
6)AOIP(ASEAN Outlook on Indo-Pacific)を参考にして、北東アジアにAOIP方式を広げていく。
核廃絶への2段階方針
MAD派と核廃絶派とが、「核戦争には勝者はいない。共滅するだけだから核戦争を戦ってはならない」という「核のタブー」原則を世界の公理に高め、まず第一段階はMAD派の主張する最小限核抑止とし、ミサイル防衛=敵の核戦力つぶしを禁止し、宇宙を非核・非軍事ゾーンとする。そのうえで、核兵器の全面禁止の第2段階に向かう。
第3の道――真の多角主義にもとづく「ディープ・ピースの世界」へ
トランプ・プーチン・欧州極右の白人男性優位の「偉大国復興」型ナショナリズムの道には、多くの問題点がある。グローバルサウスの民主的強化・市民社会の強化を通した民主的で水平的な国際主義の視点に立った政策を練り上げていきたい。
そのためには哲学・自然観の天動説から地動説へのコペルニクス的転換が必要だと考えます。宇宙・イノチの根源を「環境」とは捉えず、「環盤」と捉える「唯物アニミズム一元論」への転換が必要でしょう。これを通して、「モモ」(M.エンデ)のような「高次天然人」を輩出すること。そのためには高次自然社会への創造的回帰が必要だ。「縄文・江戸・市民社会」の叡智に学んでいきたいと思う。
1)平岡敬『希望のヒロシマ――市長はうったえる』1996年、岩波新書。
2)詳細は、『向日葵とアンパンマンー日米を結ぶ『原爆』探究の旅・23年目のゴールイン」 https://eco-economy.ever.jp/wp/wp-content/uploads/2019/04/7-10-201703.pdf
3)W.ペリー・トム・コリーナ(田井中雅人訳)『核のボタン』朝日新聞出版、2020年、162・276ページを参照。
4)ロバート・オルドリッジ『核先制攻撃症候群』(タイトルは“Counter-Force Syndrome”1978年、岩波新書)は、この時代の黎明期を描いています。
5)“Nuclear Deterrence in the Age of Great Power Competition”(Alan Kaptanoglu, Stewart Prager, US Defense To Its Workforce: Nuclear War Can Be Won, Bulletin for the Atomic Scientists,Feb.2,2022 を参照
6)このSuper Fuse革命を用いると、中ロ・北との間で核戦争を同時に展開しても、勝利が可能と説くのが、Theodore Postal, Biden’s New Strategy and the Super-fuse that sets it off, Responsible Statecraft, Quincy Institute, Aug 29,2024.
7)『朝日新聞』2025年4月16日付け朝。
8)CLR.CUT 2025年4月16日付け(安斎育郎情報) ここでは、ネオコンと組んだバイデンが主犯なのだと匂わせるに至っている。
9)たとえば渡辺惣樹『ネオコンの残党との最終戦争――甦る米国の保守主義』2023年3月、ビジネス社。及川幸久『いま世界を動かしている黒いシナリオ』徳間書店、2022年12月。 山中泉『アメリカと共に沈む日本』ビジネス社2024年3月。
参政党とは距離をおくが、同様の立論をする論客としては、成澤宗男『米国を戦争に導く2人の魔女――フロノイとヌーランド』緑風出版、2024年8月 およびエマニュエル・トッド『西洋の敗北――日本と世界に何が起きるのか』講談社、2024年がいる。
10)ネオコンの大御所の一人のドナルド・ケーガンの2人の息子ーフレデリック・ケーガンの配偶者がキンバリー・ケーガン(戦争研究所を創立し、ウクライナ戦争をモニター・誘導する中心人物)。もう一人の息子のロバート・ケーガンの配偶者がバンデン政権の国務省ナンバー2のヴィクトリア・ヌーランド。マイダン・クーデター後のウクライナ戦争に至る動きを、英米系軍産複合体の管理下に置こうとしてきたが、バイデン政権末期に失脚した。神保哲生「ネオコンとロシア」 https://nihonkosoforum.org/report/20220823/ 。
そのほか、東欧の西側統合をはかってきたジョージ・ソロスや世界経済フォーラムなど金融資本も加わる。理論的指導者は、国際地政学者のズグニュー・ブレジンスキー。
11)池上彰・佐藤 優『グローバルサウスの逆襲』(文春新書、2024年4月)。
12)Sputnik,2023年10月18日。
13)詳細は、レーザー砲搭載予定の無人の宇宙飛翔体X37を取材した河津幸英『図説 米中軍事対決』2014年11月、三修社。
(『経済科学通信』161号、基礎経済科学研究所、2025年6月、所収)
◇ 本稿の再審補正板については、以下のPDFをお読みください。「経済科学通信」第161号 PDF
https://eco-economy.ever.jp/wp/wp-content/uploads/2025/06/750c567fc0762158075c3ad4255a3864.pdf