渡辺治・福祉国家構想研究会編『日米安保と戦争法に代わる選択肢――憲法を実現する平和の構想』 2016年、大月書店 

 渡辺治さんたちは、1997-98年に『講座・現代日本』全4巻、2003-04年に『講座・戦争と現代』全5巻を出版し、新自由主義グローバリゼーションや反テロ地球戦争に追随することの愚と危険を世に警告してきた。

 2011年に渡辺さんたちは「福祉国家構想研究会」を結成し、共同研究の成果を「シリーズ新福祉国家構想」と銘うって公刊しだした。「憲法を実現する平和の構想」を拓くために編まれたシリーズ4冊目の作品が本書だ。

 序章は「安倍政権による戦争法強行と対抗構想」と題され、平和と安全の確保策をめぐって、日本では3つの潮流が競い合ってきた経緯が説明されている。3つの潮流とは、①地球規模で日米軍事同盟の強化をめざす安倍政権支持派、②「武力によらない平和」を実現しようとする護憲・安保廃棄派、③安保・自衛隊は容認するものの、専守防衛原則を守ることで米国の始める戦争に巻き込まれるのを避けたいとするリベラル派だ。

 日本では、北朝鮮の核・ミサイル開発や中国の覇権主義的動きを見て、日米軍事同盟の強化もやむなしとする人が増え、安保廃棄派は減ってきた。にもかかわらず、一昨年の夏には戦争法反対の運動が未曽有の高揚を示した。それはなぜか。「分断による統治」という支配層の戦略を乗り越え、史上はじめて安保廃棄派と専守防衛=リベラル派との共闘が成立したからだと、本書は説く。

 この指摘は正しいし、3つの潮流の分析や分断の歴史について、本書から学ぶことが多かった。修正資本主義=「新福祉国家」の建設に目標を定めたことで、運動団体間の資本主義観の違いからくる対立を避けやすくしたことも評価できる。

 安倍政権は、リベラル派と安保廃棄派とを分断することに全力を挙げてくるだろう。両派間の共闘の土台を打ち固め、戦争法廃止の連合政権の成立に至るには、何が必要か。こんご補強してほしい論点を四つ指摘したい。

 第一に、「反テロ地球戦争」のなかで米国が作り上げてきた「新型戦争」の実相を究明し、米国戦略に一体化していけば、どのような結果となるかを深めてほしい。新型戦争の軍事技術的基盤を私は、「宇宙ベースのネットワーク中心型戦争」と名付け、ドローンを多用する2005年以降は、「半宇宙戦争」の局面に入ったと考えているが、宇宙から地球の事象を見る視点が本書には欠けている。「後方地域支援」が「後方支援」に変えられるなど、地理的限界がなくなったことが本書では述べられているが、宇宙衛星による後方支援を考えると、これは当然の話だ。米国主導のミサイル防衛態勢に日本が追随していくと、「海外で戦争する国」の域にとどまらず、「宇宙で(核)戦争する国」となる可能性が高いことも指摘してほしかった。赤道上空2万キロのGPS衛星軌道で核爆発が起こり、1958・1962年の宇宙核実験の際に起こったような赤いオーロラが地球を包むといった事態の再現をどう避けたらよいかについて、リベラル派と安保廃棄派が真剣に議論すべき時に来ている。

 第二に、日本を戦争する国に改造するばあい、福島で崩壊した3基の原子炉はどんな影響を与えるのかについても解明してほしい。新型戦争システムの最大のアキレス腱は、宇宙衛星編隊、サイバー空間、自壊中の原子炉にあるからだ。じっさい米国・中国の両覇権主義国が「チキン・レース」を続け、その挙句に福島第一原発が攻撃され、大量の放射性物質が噴出したとしよう。未曽有の核惨事が日本を襲い、東日本は無人の地となるだろう。これを見て、中国も米国も冷静さを取り戻し、停戦に入る。数千万の日本人が流浪の民となり、朝鮮半島・中国に向かう難民となった後に、平和が戻ってくるーーこのような結末を迎えぬために何をなすべきか。安保廃棄派とリベラル派とは、真剣に語り合ってほしい。 

 第三に、日米軍事同盟に依存しない形で、東アジアの平和をどう作ったらよいのかという問題だ。一番の勘所は、朝鮮戦争の終結にあると私は思う。1950年に始まった朝鮮戦争は、67年を経過しても終結せず、東アジア史上、最長の戦争となっている。最初の40年近くは、武力統一論を放棄しなかった北朝鮮側に重要な責任があったことは確かだが、1990年代末に北朝鮮側は武力統一方針を事実上放棄し、「朝鮮戦争の終結」を懇願しだした。2002年には面子を捨てて日本人拉致の事実を認め、謝罪することで、平和の回復を求めた。この好機に朝鮮戦争の終結を許さなかったのは誰か。米国の軍産複合体とそれに操られた日本の極右勢力ではなかったか。数年前から北朝鮮・中国・ロシアが一体となり、朝鮮戦争の終結を米国側に再び求めだしたが、この動きに答えることこそが局面を開くのではないか。

 覇権主義を強めつつある中国にたいしてはどう対処したらよいのか。日本人がなすべきは、近代日本が犯した「帝国主義の誤り」を全身で受け止め、謝罪するとともに、「我らの誤りを繰り返してくれるな」と中国側に真心をこめて説くことであろう。韓国やアセアン諸国、国連とも連携して、米国・中国の2大覇権主義国が暴走し、「チキン・レース」に走ることを許さないしくみを作ろうではないか。

 第四に、戦争法廃止・憲法を活かす運動を、これまで平和運動と距離を置いてきた他の社会運動と連携させる課題だ。①肥えたソイル(土壌)を作り、土と内臓の間の微生物循環や炭素と水の地域循環を取り戻し、地球温暖化を防ぐ運動、②ソウル(心・精神)を肉体と自然に埋め戻し、心身の健康を回復させる運動、③ソサイエティ(家族と地域)を強化し、非営利共同体の友愛文化を取り戻す運動がそれだ。軍事部門に閉じ込められた資源を自然資本の保全、健康・ケア、非営利共同といった部門に移し替え、平和運動が他の社会運動と響き合う関係を築く展望を示してほしかった。次作では、これらの点にも触れていただくことを期待する。

      (『経済』 2017年4月号102-103頁、所収の拙稿を一部、補正した)