今日のウクライナ、明日の立命館

――第3次世界大戦=宇宙核戦争に抗する教学創造を

藤岡 惇

 

 立命での「現代平和論」の担当も今期が最後。折しもウクライナの地では核戦争の不吉な予兆が立ちのぼった。何をなすべきか。300名の受講生とともに模索する毎日だ。いくつかコメントしたい。

ウクライナ侵攻を決断したプーチンの誤算
① 米英中心の「軍産・金融資本主義」、②BRICS(ブラジル・ロシア・インド・中国・南ア)やトルコ・イラン・サウジ・アルゼンチンなどの「国権・開発資本主義」、③中小国と市民社会という3大勢力に世界は分れてきた。BRICSと中東産油国が連携すれば、「金・資源本位制」が復活し、米英の「ペーパー・ドル本位制」はインフレの泥沼に沈むとプーチンは考えた節がある。しかし民衆の主体性の発展が歴史を動かすことを、彼は見落とした。10月12日の国連総会で東部4州併合宣言を「無効」とする非難決議が、143か国の賛成で採択された。頼みの中国・インド・ブラジル・南ア・トルコは棄権に回るのが精々だった。

NATO拡張への懸念には道理あり、ウクライナの中立化を 
 プーチンの過激策を呼び込む誘因がNATO側にあったことも否定できない。コカイン中毒の喜劇役者のゼレンスキーの背後には、クリミア半島を含む全領土の解放まで戦い続けよと説くアゾフ連隊など極右的潮流がいる。米英が育成してきたこの潮流については、安斎育郎さんが毎日発行する「今日のウクライナ情報」に詳しい。

誤算のプーチンにも逃げ場をつくれ
 追い詰められたら、戦術核兵器を使うとプーチンは威嚇してきた。どんな使い方が予想されるか。ウクライナの上空100キロ程度の宇宙空間で核爆発を起こすことだ。人的被害はゼロだが、電磁パルスを生み出し、電子空間は長期間、マヒするだろう。いま一つは、原発の爆破。福島の核事故と同様に「ただちには誰も死なない」。核の時代のこのような「不愉快な現実」には妥協するほかない。
停戦に持ち込むには、どうしたらよいか。公正な調停者を見出すことだ。3つの流れに注目したい。
 第1は、スペースX社を立ち上げた世界一の富豪のイーロン・マスクだ。①ロシアが併合を宣言したウクライナ4州での住民投票を国連の監視下でやり直す。②2014年にロシアが一方的に併合したクリミア半島については、住民の大多数の実態をふまえて、ロシア領とする。③ウクライナは中立を維持する、というイーロンの調停案は合理的だ。核冷戦が復活し、民間の宇宙産業にも核戦争下でもワークする仕様が求められるようになると、民間の宇宙産業は壊滅する。それだけに彼も真剣なのだ。
 第2の流れは、「国権・開発資本主義」グループに属する中国・インド・トルコによる調停の動きだ。
 第3の流れは、西側の市民社会グループだ。ローマ教皇、国連事務総長、ダライ・ラマ、被爆者のセツコ・サローさんなどが調停役の候補として浮かぶ。3つの流れの間で調整が進むことを期待したい。

東側の前線国--日本の未来
 この戦争は、米英・NATOとロシアの間の代理戦争の様相を強めている。米国は、日本を新核冷戦の東側の前線国と位置付けてきた。ウクライナと同じ事態が日本でも再現されないため何をなすべきか。受講生は模索を始めている。
 現代平和論は、学生の2割程度しか履修できない。せめて過半の学生が履修できるよう、設置コマ数を増やして欲しい。「平和と民主主義」の教学をどう強化するか。このテーマが今秋の総長選挙の争点となることを期待する。

    (『立命館の民主主義を考える会ニューズ』80号、2022年10月。一部補正)