亡国の陸上イージス

「経済」2018年12月号

藤岡 惇

 「イージス」とは、ギリシヤ神話の女神がまとう防具のこと。転じて、敵ミサイルの接近を感知すると、迎撃ミサイルを発射し、撃墜する装置をイージスと呼ぶようになった。とくに艦船搭載タイプはイージス・アフロート、陸地配備タイプはイージス・アショア(陸上イージス)と呼ばれる。

 北朝鮮のミサイル対策として、この施設を米国から購入し、秋田県の陸上自衛隊新屋演習場、山口県のむつみ演習場に設置し、SM3という迎撃ミサイルを配備する方針を日本政府が発表した。

 北朝鮮による核・ミサイル開発は由々しいことだが、朝鮮戦争の終結・北の体制の保障と朝鮮半島の非核化との同時実現という方向に、事態が動き出した。歓迎すべき積極的な変化だが、陸上イージス設置の方針を米国も安倍政権も変えていない。それはなぜか。

 結論からいえば、この間に「主敵」についての米国の認識が変わったからだ。本年1月に国防総省は「米国の国家防衛戦略」を10年ぶりに書き改めた。これまでは、イラン・北朝鮮の「ならず者国家」と国際テロ組織が主敵とされてきたのだが、今回から主敵として、中国とロシアが名指しされた。米国主導の世界秩序を塗りかえようとする「修正主義国家」とされた。中ロを封じ込め、無害化するまで、核戦争を辞さぬ覚悟で長期に戦い抜くという姿勢を米国は鮮明に示したわけだ。

 ミサイル防衛とは、通常ミサイルを撃ち落とすものだと思い込んでいる人が多いが、新たに中ロの核ミサイルがターゲットとして浮上してきた。封じ込めの西部戦線には、すでに二つの陸上イージス基地が設けられている。ルーマニアのデブセル施設に加えて、ポーランドのロジコボ施設も年内には稼働の予定だ。

 東部戦線の軸として期待されるのは日本。米国の軍事拠点に向けて飛ぶ中ロ(場合によると北朝鮮)の核ミサイルの阻止が、日本の陸上イージスの任務として浮上する可能性が高い。実際、中国の巡航ミサイルを迎撃する可能性を防衛省筋は認めている。

 敵の核ミサイルを100%撃墜できるならば核戦争に勝利できるが、実際にはきわめて困難だ。ミサイルの同時連射、深海からの発射、高速化や巡航化、多数の囮弾頭の放出、等々といった対抗策を中ロはとれるからだ。

 対抗策をあと二つ紹介しておこう。①攻撃する標的を地上から天空に変更し、地上2万㌔の天空で核爆発を起こすこと。この高度で核爆発が起これば、GPS衛星編隊はマヒし、米国の戦争システムだけでなく、経済システムの根幹が止まってしまう。

 ②迎撃ミサイルの接近を感知したら、ただちに爆発を起こす感応装置を中ロの核ミサイルに搭載しておくこと。核反応は化学反応の数千倍の速さで進むので、核爆発の所要時間は10万分の1秒程度。中ロのミサイルは秒速4㌔で飛ぶとし、これに正面衝突する勢いでSM3が秒速5㌔で近づくとすれば、両者は1秒につき9㌔㍍で接近する。あと1㍍で衝突という時点で、核爆発が始まったとすれば、9㌢㍍近づいた時点で、核爆発は終わる。日本上空100㌔から1000㌔の天空で核自爆が起こったならば、気体分子が大量に電離し、深刻な電磁パルスが発生する。「核の冬」ならぬ「核のブラックアウト」(電力網の全系崩壊)が引き起こされ、日本全土は長期間、「核の闇」に沈んでしまうだろう。

 日本への原爆投下の9カ月後にアインシュタインはこう述べた。「核の時代はすべてを変えてしまったのだが、人々の考え方は昔のままだ。ここに最大の危険がある」と。何をなすべきか。①「核交戦には勝者はない、共滅あるのみ」という真実を広げること。②朝鮮戦争の終結、朝鮮半島の非核化を実現させること。③アセアンとも連帯し、米中ロをまきこみ、非核・不戦地帯を東アジア全域に広げていくこと、④非核・不戦地帯を宇宙にも広げ、核兵器と宇宙兵器の禁止を実現することであろう。その先導役として、平和憲法9条が光り輝く時代が来た。

 (「兵器と核の宇宙配備反対!地球ネット」(略称「宇宙に平和を!ネット」)理事、立命館大学名誉教授)